海外セレブの40代・50代出産ニュースにモヤモヤするあなたへ
おめでとう、でも少しだけモヤモヤする
最近、海外セレブの「40・50代での妊娠・出産」のニュースを立て続けに目にしました。
43歳のアン・ハサウェイさんが第3子を妊娠中。
ナタリー・ポートマンさんが45歳で第3子を出産。
そして、53歳のキャメロン・ディアスさんに第3子が誕生。
「おめでとう!すごい!」と思う気持ちに嘘はありません。
でも正直に言うと、少し胸の奥がざわっとする自分もいます。
私は今44歳で、妊活は数年前にあきらめました。
自分の中で折り合いをつけて、前に進んでいる自覚はあります。
それなのに、同年代や年上の方の妊娠、出産ニュースを目にすると、今でも気持ちが少し揺れるときがあります。
この気持ち、きっと私だけではないはず!
今回は、このモヤモヤの正体について深掘りしていこうと思います。

私がこのテーマを書く理由
私は乳房画像診断を専門とする医師です。
また同時に、妊娠の喜びと失う痛み(グリーフ)の両方を経験した当事者でもあります。
私は37歳で待望の第1子を出産しました。いわゆる「高齢出産」です。
その後38歳のとき、稽留流産を2回、さらに異所性妊娠(子宮外妊娠)も経験しました。
そのとき主治医に繰り返し言われたのが、「35歳だから仕方ない」という文言。
医学的にも統計的にも、間違った言葉ではありません。
でも私はそのとき初めて、自分が「仕方ない年齢」にいることを、本当の意味で知りました。
医学生の頃から、妊孕性(妊娠する能力)の知識はあったにも関わらず、です
その後、度重なる喪失に、深く落ち込みました。
それでも「私のつらい経験が、誰かの役に立てば」という思いから、今は流産や死産を経験した方のピアサポート活動を細々と続けています。
会の中で何度も耳にするのが、こんな言葉です。
「年齢のことで、つい焦ってしまう」
「もっと早く、妊孕性のことを知っていればよかった」
知識さえあればどうにかなる、というものではありません。
それでも、早めに知っておくことで、選択肢はぐっと広がります。
そんな思いから、妊孕性についての情報発信も定期的に行っています。
この記事は、誰かを責めるためのものではありません。
後悔する人を一人でも減らしたい。そんな思いで書いています。
「何歳で何人目」は報じられても、「どうやって」は語られない
まず、最近話題になった海外セレブの出産年齢を並べてみました。

こうして並べると、報道の多くは「何歳で何人目」という事実だけを伝えています。
どのような経緯で赤ちゃんを迎えたのかは、ご本人が語らない限り、私たちには分かりません。
もちろんそれは当然、守られるべきプライバシーです。
ただ、「53歳で出産」という見出しだけが一人歩きすると、それが自然妊娠だったかのような印象が残ります。
また、キャメロン・ディアスさんの出産についてネットを検索すると「全員代理出産」と断定する記事も見つかります。
でもたどっていくと、その根拠は匿名の関係者情報と、「お腹が目立たなかった」といった推測でした。
ご本人たちが発表しているのは、誕生の事実だけです。
「自然に授かった」という印象も、「全部代理出産」という噂も、どちらもご本人の言葉ではありません。
私たちはその両極端の間で、本当のことを知らないままニュースを受け取っているのです。
その中で、流産や不妊治療の苦しい経験を語ってくれたアン・ハサウェイさんのような人もいます。
その勇気に、私は心から敬意を払いたいと思います。
報道のバイアスは、論文でも示されています
この「伝え方のバイアス」を、数字で調べた研究があります。
タイトルは 「Age is Just a Number(年齢はただの数字)」。
2019年に「Journal of Women's Health」に発表された論文です。
この研究チームは、米国の人気雑誌(People、Us Weekly)の2010〜2014年の416号を調べました。
妊娠や出産に関する記事・写真は1,894件、登場した有名人は240人です。
分かったことは次のとおりです。
- 取り上げられた女性の56%が35歳以上
- 高齢妊娠のリスクに触れた記述は、4年間でわずか2件
- 不妊治療を使ったと書かれていたのは240人中3人(1.25%)
- 44歳を超えて妊娠・出産した7人は、全員が不妊治療に触れられていなかった
- 提供卵子への言及は0件。実際には、米国の体外受精の約11%で提供卵子が使われています
- 避妊の広告や記事は全号(100%)にあったのに、不妊治療に触れた号は2.4%
雑誌には「40歳過ぎて出産した25人のスター」「ハリウッドの奇跡のママたち、確率を超えた」といった見出しが並んでいたそうです。
一方、現実の数字は大きく違います。
論文で引用されている米国のデータでは、42歳を超えると、自分の卵子を使った体外受精での出産率は3.9%。
「44歳を超えると、集計されないほど低い」と書かれています。
著者らは「雑誌の内容が、年齢による妊孕力の低下についての誤解を生む一因になっている可能性がある」と結論づけています。
この研究は10年以上前の雑誌を対象にしています。
でも、今のSNSやネットニュースでも、構図はあまり変わっていないように感じます。
「卵子凍結していたのかな?」―個数まで語る人はほとんどいない
こうしたニュースを見るたびに、私には素朴な疑問が湧きます。
「この人たちは、何歳のときに、卵子を何個凍結していたんだろう?」
調べてみると、卵子凍結を公表している海外セレブは少なくありません。
でも、年齢や個数まで語っている人はごくわずかでした。
その中で、とても率直に語っているのが、女優のオリビア・マンさんです。
彼女は卵子凍結を3回経験しています。
- 33歳:卵子は「とても良かった」
- 39歳:採卵した卵子は「一つも使えなかった」
- 42歳(乳がんの診断後、治療前):健康な胚が2つできた
たった6年の差で、結果は大きく変わります。
年齢とともに卵子の「数」だけでなく「質」も下がることを、分かりやすく示す例はなかなかありません。
もう少し数字で補足します。
卵子凍結の結果を予測する研究(Goldman RH, et al. 2017)によると、「少なくとも1人出産できる確率」を75%にするには、成熟卵子をこれだけ凍結する必要があります。

1回の採卵で得られる卵子の数には限りがあります。
42歳で61個というのは、何度も何度も採卵を重ねなければ届かない数で、非現実的です。
背景にあるのは、卵子の「質」です。
染色体が正常な胚の割合は、35歳以下では約57%ですが、44歳では約13%まで下がります。
しかも著者ら自身が、この予測は「楽観的な可能性がある」と書いています。
そして大切なのは、凍結した卵子があっても、必ず出産につながるわけではないこと。
卵子凍結は「保険」であって、「保証」ではないのです。
出産ニュースが伝えない3つのこと
1. そこに至るまでの道のり
不妊治療、卵子凍結、提供卵子、代理母出産。
今はさまざまな選択肢があります。
でも、どの道を選んだのかは、ニュースにはほとんど出てきません。
2. 見えない喪失
流産や、うまくいかなかった治療。
年齢が上がるほど、流産の確率は高くなります。
一人の赤ちゃんの誕生の裏に、何度もの悲しみがあったかもしれません。

3. 母体のリスク
妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、早産、そして重い母体合併症。
先の論文でも、45〜49歳、とくに50歳以上では重い合併症のリスクが大きく高まると指摘されています。

例え凍結卵子、提供卵子を使っても、妊娠する体は自分の年齢のまま。
母体のリスクは変わらないのです。
責めたいのは、個人ではなく「伝え方」
ここは誤解のないように書いておきたいと思います。
どんな方法で赤ちゃんを迎えたのかを語らない自由は、有名人にも、私たち一般の人にもあります。
先の論文の著者も、「すべての人にプライバシーの権利がある」とはっきり書いています。
問題なのは、「奇跡」「年齢はただの数字」という美しい部分だけを切り取る報道の仕方です。
その結果、こんなことが起きているのではないでしょうか。
- 「40代でも大丈夫」と、妊娠を先延ばしにする後押しになる
- 治療中の人が「うまくいかないのは私だけ」と孤独を感じる
- 授からなかった人が、自分を責めてしまう
実際にピアサポートの会でも、こんな声を聞くことがあります。
「こういったニュースを、少し鵜呑みにしすぎていた」
「不妊クリニックに通い始めて、医師の説明を聞いたら目の前が真っ暗になった。もっと早く受診すればよかった」
見出しの「奇跡」の裏側にある現実も、一緒に伝えていく必要がある。
会で声を聞くたびに、私はそう感じています。
「おめでとう」と「モヤモヤ」は両立していい
妊娠・出産のニュースにモヤモヤするのは、嫉妬しているからでも、心が狭いからでもありません。
口にできなかった喪失や、手放した願いがあるからこそ生まれる、ごく自然な心の反応だと私は思います。
だから、そんな自分を責めないでほしい。いつも、そう願っています。
これから妊娠・出産ニュースを見たときは、ちょっとだけこう考えてみてください。
- このニュースには、何が書かれていないだろう?
- 「奇跡」の裏に、どんな道のりがあっただろう?
そして、これから妊娠・出産を考える若い世代の方へ。
妊孕性の知識は、焦らせるためのものではありません。
自分の人生の選択肢を広げるためのものです。
「もっと早く知っていればよかった」という後悔を、一人でも減らせたら。
それが、私がこの分野の発信を続ける理由です。
論文・ガイドライン
- Willson SF, Perelman A, Goldman KN. “Age is Just a Number”: How Celebrity-Driven Magazines Misrepresent Fertility at Advanced Reproductive Ages. J Women’s Health. 2019;28(10):1338-1343. doi:10.1089/jwh.2018.7433
- Goldman RH, Racowsky C, Farland LV, et al. Predicting the likelihood of live birth for elective oocyte cryopreservation: a counseling tool for physicians and patients. Hum Reprod. 2017;32(4):853-859. doi:10.1093/humrep/dex008
- American College of Obstetricians and Gynecologists. Practice Bulletin No. 200: Early Pregnancy Loss. Obstet Gynecol. 2018;132(5):e197-e207.
- Lisonkova S, Potts J, Muraca GM, et al. Maternal age and severe maternal morbidity: A population-based retrospective cohort study. PLoS Med. 2017;14(5):e1002307. doi:10.1371/journal.pmed.1002307
これからの人生とキャリアを考えたい方へ
「いつかは子どもを。でも今は仕事も大事」。
そんな方に向けて、ライフキャリアプランニングのページをつくっています。
- 年齢ごとの妊娠率と流産率(日本産科婦人科学会のARTデータブックより)
- 自分の考え方を確かめるセルフチェックリスト
- 全8回の無料メール講座(対談「キャリア女子の産みどき」のダイジェスト動画つき)
ニュースの見出しではなく、実際の数字を知るところから始めてみてください。
ご自身のためにも、大切な誰かのためにも。
Pregnancy Lossを一人で抱えていませんか?

オンラインでのピアサポートグループ
お腹の赤ちゃんを急に失った悲しみに寄り添い、心をケアする体制がまだまだ整っていません。
最近経験して気持ちの行き場がない方、かなり前に経験したけれど、消化できていない方。泣いたり、話したり、聞いたり、なんでもよし。
ご都合の合うタイミングで参加していただければ、と思います。


