「妊娠=子宮内」とは限らない~2度の子宮外妊娠(異所性妊娠)を経験した女性の声と命を守るアクション~
8月1日は「異所性妊娠(子宮外妊娠)啓発デー」。
実は私自身も、異所性妊娠を経験し、手術によって右卵管を失った当事者のひとりです。
医療の現場では、
「妊娠可能年齢の女性の腹痛は、まずは異所性妊娠を疑え」
と何度も繰り返し教えられます。
それほど、見逃してはいけない――命に関わる大切な疾患なのです。
異所性妊娠はすべての妊娠の約1〜2%と、決して多くはありませんが、そんなに珍しくもありません。
その割に、一般の方にはまだ十分に知られていないのではないかと感じています。
でも、その「数%」にあなた自身や、あなたの大切な人が含まれるかもしれない――そう考えると、決して他人ごとではないはずです。
これまでも異所性妊娠に関する記事は執筆してまいりましたが
▶︎8月1日は異所性妊娠(子宮外妊娠)啓発デーです
▶︎低確率でも油断禁物 知識が手遅れと防いだ異所性妊娠(子宮外妊娠)
この記事では、2度の異所性妊娠を経験し、私が主催するピアサポートグループにも2度ご参加くださったSさん(30代)の声を紹介します。
あわせて、異所性妊娠に関する基本的な医学情報と、命を守るために大切な「気づき」や「行動のヒント」もお伝えします。
まずは「知っておくこと」——それが命を守る第一歩です。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

異所性妊娠とは?~そのリスクと危険性~
異所性妊娠とは、本来であれば子宮内に着床するはずの受精卵が、卵管など子宮外の部位に着床する、異常妊娠のことをいいます。
最も多い着床場所は卵管で、全体の95%以上を占めています。
以下のような部位にも着床することがあります:
着床部位
・卵管膨大部(最も多く約90%)
・卵管峡部(2~3%)
・卵管間質部(1~2%)
・ 卵管采(2~3%)
・ その他の着床場所として卵巣(1~2%)、子宮頸管、腹膜、帝王切開瘢痕部など(いずれも1%未満)があります。
リスク因子
・骨盤内感染症(クラミジアなど)の既往
・過去の異所性妊娠の既往
・体外受精などの不妊治療歴
異所性妊娠では、残念ながら赤ちゃんは育つことができず、
また、卵管などが破裂すると、母体の命をも脅かす重大なリスクがあります。
そのため、何よりも早期発見と適切な医療対応が命を守る鍵となります。
ここからは、そんな異所性妊娠を2度経験されたSさん(30代女性)の体験談をご紹介します。
実体験:Sさんが語る「2度の異所性妊娠」
1回目の異所性妊娠:妊娠反応はフライング陽性、でも着床していたのは…
第一子を出産後、第二子を希望し妊活に励んでいたSさん。
タイミング法でのチャレンジ中、少しフライング気味に妊娠検査薬を使ってみると――結果は、くっきりと陽性!
嬉しい気持ちと同時に、これまでに読んできた妊娠・出産に関する情報の中から“何かがおかしい”という違和感が頭をよぎります。
「もしかして、子宮外妊娠かもしれない――」
そう思ったSさんは、すぐに近所の産婦人科を受診。
けれど医師からは「まだ時期が早いので、また来週来てください」と言われ、その日は帰宅することに。
その数日後、夜間に突然の腹痛と冷や汗。
自ら救急車を呼び、搬送された病院で「右卵管への異所性妊娠」と診断され、腹腔鏡下手術を受けました。
右の卵管は破裂しており、温存は叶わず切除。お腹の赤ちゃんとも突然お別れすることとなりました。
「おかしいと思って早めに受診したのに、結局破裂してしまった悔しさが大きかったです」
術後は心身ともにボロボロ。
日中ひとりで育児をすることも難しく、長男を保育園に預け、またSさんは仕事を休職することとなりました。
さらに、夫婦の間にもすれ違いが生じ、喧嘩ばかりの日々。まさに試練の日々を過ごされました。

2回目の異所性妊娠:体外受精後に再び
時間が経ち、体外受精にチャレンジしても上手くいかなかったところ、そんな中、自然妊娠で第二子(次男)を授かります。
その後も三人目を希望して、再び体外受精に挑戦。
2回目の移植で妊娠反応はあったものの、出血があったり、hCGの値が低かったり...。
フォローアップの受診では、hCGが2000mIU/mLなのに、子宮内に胎嚢は見えず...。
その後も頻繁に病院に通い、hCGの推移をチェック。
MRIを撮影し、ようやく診断されたのは「右卵管間質部(子宮と卵管の境目)への異所性妊娠」でした。
子宮の一部を切除するという、さらに大きな手術を受けることになってしまったのです。
「また子宮外かも、と覚悟していたつもりだったけれど、やっぱりなかなか受け入れられませんでした。手術の同意書も急がされて、誰も心に寄り添ってくれなかったと感じました。」
術後、フォローアップの診察で「体は大丈夫だけど、メンタルが大丈夫じゃないです」と医師に伝えても、反応は薄く、後ろにいた助産師さんも特にアクションなし。
支援先につないでもらえることもなく、孤独を感じたSさんでしたが、ふと前回のピアサポートグループを思い出し、再び参加してくださいました。
異所性妊娠は、早期発見が命を守る
「妊娠=子宮内」とは限りません。
妊娠検査薬で陽性が出ても、赤ちゃんが正しい場所に着床しているかどうかを確認することがとても重要です。
日本は医療アクセスのいい国です。
妊娠検査薬で陽性となれば、すぐに産婦人科を受診することができます。
ただし、受診のタイミングが早すぎると、まだ着床場所が特定できないこともありますし、流産と判別がつかない時もあります。
それでも「何かおかしい」と感じたときに行動することが、あなた自身の命を守ることにもつながります。
普段からできること
・月経周期を把握し、遅れがあれば妊娠検査薬で確認する
・妊娠が分かったら、「どこに着床しているか」を確かめるために受診する

こんな症状があれば、すぐに受診を
・性交歴があり、月経が遅れている(まずは妊娠検査薬の使用を)
・妊娠している
・下腹部に違和感や張り、痛みがある
・性器出血がある
こうした症状があるときは、自己判断せず、すぐに医療機関を受診することが大切です。
「こんなことで受診していいのかな」とためらわず、まずは自分の体と命を守る行動を選んでください。
急な腹痛があったときは
急激な腹痛に襲われた場合は、卵管破裂などが起きている可能性もあります。
その場合、命に関わる緊急事態です。
すぐに救急車を呼び、総合病院を受診してください。
妊娠していることがわかっている場合は「妊娠していること」をしっかり伝えることが大切です。

「妊娠=おめでたい」だけではない現実
妊活中や不妊治療中であれば、妊娠の兆候に敏感になれますが、
月経不順がある方や予期しない妊娠だった場合、妊娠に気づくのが遅れることもあります。
中には、望まない妊娠で「妊娠したことを誰にも言えない」「どうしよう」と悩む方もいるかもしれません。
そんなときでも、産む・産まないに関係なく、まずは受診しましょう。
親御さんへ
もしも10代の娘さんが妊娠したとわかったら、怒りが先に立つかもしれません。でもまずは、一緒に産婦人科を受診してあげてください。
その先の話はそれからです。

異所性妊娠が残す、からだと心の傷
たとえ命が助かっても、異所性妊娠はとてもつらい経験です。
私はこれまでに、稽留流産を2回、異所性妊娠を1回経験しました。
どれも大きな喪失でしたが、中でも異所性妊娠はこんな思いを残しました。
異所性妊娠は——
・着床する場所さえ違っていれば、赤ちゃんは生きられたかもしれないという悔しさが残る
・手術によって卵管や子宮の一部を失うことがあるという身体的ダメージ
・将来の妊孕性(妊娠する力)への不安
・流産や死産と同じようには語られず、孤立感が強い
——といった特有のつらさがあります。
これらは、Sさんをはじめとする多くの当事者が共通して感じていること。
私自身も深く共感しています。
ピアサポートが「誰にも言えない」を受け止める場所に
私が主催するピアサポートグループでは、異所性妊娠を経験された方たちも、安心して話し合える時間を共有しています。
「自分だけじゃなかった」と感じられることが、回復の第一歩になることもあります。
ひとりで抱え込まずに、ぜひ私たちの場を頼ってみてください。
Pregnancy Lossを一人で抱えていませんか?

オンラインでのピアサポートグループ
お腹の赤ちゃんを急に失った悲しみに寄り添い、心をケアする体制がまだまだ整っていません。
最近経験して気持ちの行き場がない方、かなり前に経験したけれど、消化できていない方。泣いたり、話したり、聞いたり、なんでもよし。
ご都合の合うタイミングで参加していただければ、と思います。
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