日本乳癌学会で発表しました|継続教育が助産師さんにもたらした変化
こんにちは!乳腺放射線科医のSatokoです。
先日、京都で開催された日本乳癌学会学術総会で、ポスター発表をしてきました。
タイトルは「助産師教育による若年乳癌サバイバー支援の意識・行動変容 —— ピンクリボン助産師アカデミーの実践から」。
私は2018年に渡米してから、乳癌学会はずっと日程が合わずオンライン参加が続いていたので、リアルに会場へ足を運ぶのは本当に久しぶりでした。会場は京都の国際会館。ちょうど台風が2つ来ているタイミングで、すぐ横の川が氾濫しそうなほどの大雨。京都まで来ているのにホテルからオンラインで視聴している方もたくさんいる人もたくさんいました。
そんな中でも、ランチョンセミナーは満員御礼。たくさんのお褒めの言葉を頂戴し、素直に嬉しかったです。
そして今回、初めてピンクリボン助産師アカデミーの活動を学会で発表しました。
4年以上続けてきたのに、一度も学会で報告したことがなかったのです。ポスターの前には、乳がんを経験された助産師さんが立ち寄ってくださって、「こんな活動があるんですね」「ウェブサイトを見てみます」と声をかけてくださいました。
今回は、そのポスターの内容を——学会用の硬い言葉ではなく、できるだけ普段の言葉で——みなさんにシェアさせてください。

そもそも、なぜこの活動を始めたのか
画像診断の仕事をしていると、35歳くらいの方で、5センチの乳がん、腋窩リンパ節もゴリゴリに腫れている
——そんな画像に出会うことも珍しくありません。
「どうしてこんなに大きくなるまで放っておいたんだろう」
そう思いながらカルテを読むと、そこにこう書かれていることがありました。
「助産師さんに乳腺炎だと思われ、マッサージを繰り返していた」
「まさか乳がんだとは思わなかった」
また別の日には、再発して転移が広がり、余命が限られている方の画像とカルテを読みました。
そういう方の記録には、こんな言葉が並びます。
「子どもの入学式に出たい」
「ランドセル姿が見たいのに、私はそこまで生きられないかもしれない」
読んでいて、本当に辛かった...。
振り返ると、授乳期にしこりに気づきながら長く様子を見てしまい、発見が遅れ、治療はしたけれどすぐ再発した——そういう経過をたどっている方が、確かにいらっしゃったのです。
当時の私はまだ独身で子どももおらず、正直なところ、その状況を本当の意味では分かっていませんでした。
けれど数年後、自分が出産して授乳を経験して、印象が変わりました。
しこりは本当にボコボコできるし、できては消えていく。自分の脇に副乳を見つけたりもしました。
「なるほど、確かにこれは分かりにくい」
自分の体で経験して、ようやく腑に落ちたのです。
その頃、一度あるセミナーを開催したところ、授乳期に乳がんが見つかったサバイバーの方から連絡をいただきました。その方も、最初は助産師さんに「おっぱいのつまりでしょう」と言われたそうです。
こうした経験が重なって、「授乳期のしこりは、乳がんのこともある」ということを、助産師さんにもお母さんたちにも伝えなければ、と強く思うようになりました。
最初は広く一般の方も対象にしたセミナーを開いたのですが、参加してくださったのは助産師さんが圧倒的に多く、そしてアンケートには、こんな声がたくさん並んでいました。
「乳がんのことをずっと勉強したかったけれど、機会がなかった」
それなら助産師さん向けにやってみようと開催したセミナーで、「役に立った」という声を多くいただき、「では継続的に勉強できる場を作ってみようか」と始まったのが、ピンクリボン助産師アカデミーです。
正直に言うと、始めたときは完全に勢いでした。まさかこんなに長く続くとも思っていませんでしたし、助産師さんがここまで変わってくださるとも、計画していたわけではありません。今こうして振り返って、初めて見えてきたことばかりです。
これまでの軌跡
2021年11月 助産師さん向けの単発セミナーからスタート
2022年6月ー 月1回のオンライン勉強会(随時セミナー)を開始(現在も継続中)
その他にはこんな活動も。
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これまでにセミナー等へご参加いただいた方は、のべ533名。
月1回の勉強会は現在まで全48テーマを扱ってきました。
テーマの内訳を数えてみると、こうなりました。

乳がんがメインではありますが、実臨床で助産師さんが困る「乳房の健康(ブレストヘルス)」へと少しずつ内容を広げてきました。
48テーマをほぼ一人で担当してきたので、我ながらけっこう頑張ったな、と思っています。
21名の助産師さんに、じっくり話を聞きました
今回の発表のために、グループメンバーの中からご協力いただける方を募り、21名の助産師さんに、お一人30分ずつ構造化インタビューを行いました。

- 開業助産師 16名 / 病院勤務 5名
- 平均在籍期間 26.81ヶ月(インタビュー時点)
- 3年近く継続して参加されている方がほとんど
みなさん本当にいろいろなことを教えてくださって、話を聞きながら「やってきてよかったな」と何度も思いました。
浮かび上がってきたのは、こんなプロセスです。
継続教育 → 意識変容 → 行動変容 → 役割の拡張
順番に見ていきます。
意識がこう変わった
① 鑑別思考の獲得 ——「乳腺炎」から「本当に乳腺炎か?」へ
以前は「乳腺炎だろう」と考えていたところに、疑いの目を持って向き合えるようになった、という変化です。
「触った瞬間に『これは乳腺炎の顔か、それとも癌の顔か』と自分に問いかけている」
「『乳腺炎だから様子を見ましょう』で終わらせず、その裏にある疾患の可能性をセットで考えるようになった」
これはまさに、私がこの活動を始めたときに「こうなってくれたらいいな」と願っていたことそのもので、聞いたときは本当に嬉しかったです。
② プロ意識の再定義 ——「安心させる」から「責任を持って導く」へ
「中途半端な知識で安心させるのではなく、正しい知識で、時には厳しく受診を勧めることが本当の優しさだと気づいた」
「一流のバッターのように、どんな不安にも的確に打ち返したい。『持ち球(知識)』が確実に増えた」
やわらかい言葉でその場を安心させるのではなく、責任を持って正しい方向へ導くことが自分の役割だ——そう language が変わっていったのが印象的でした。
③ 疾患認識の地続き化 ——「専門外」から「日常の課題」へ
「乳がんは手に負えないと思っていたが、『助産師として日常的にケアすべき地続きの課題』と思えるようになった」
「サバイバーの体験談で、疾患だけでなく、その先にあるお母さんの生活や不安に寄り添う言葉を持てた」
「専門外だから自分には関係ない」と避けていたところから、「これは自分に関わりのある問題だ」へ。この変化は大きいと思います。
行動が、こう変わった
① 問診の精緻化 ——「行ってる?」から「最後はいつ?」へ
「『最後にマンモを撮ったのは西暦何年ですか?』と聞くと、答えに詰まる。その沈黙こそ、受診を促す最大のチャンス」
「『最後はいつ?』へ。具体的な数字を聞くことで、相手の行動を促す力が変わった」
「検診行ってる?」と軽く尋ねて終わりにせず、具体的な年数まで踏み込んで聞けるようになった、という変化です。
② 触診時の意識 ——「母乳ケア」から「ケア+スクリーニング」へ
「指先で『引き連れ』『動かない固まり』をスキャン。ケアをしながら同時に検診をしている感覚」
「『乳汁の停滞』か『組織の固まり』かを判別する、指先のセンサーが鋭くなった」
助産師さんの手は、最も多く乳房に触れてきた手です。超音波の画像をお見せすることで、「自分がいつも触っているものが、画像ではこう見えるのか」とリンクするようになった、という声もいただきました。
③ 受診勧奨の具体化 ——「助言」から「病院・日時まで一緒に決める」へ
「『どこの病院の何先生に、いつ行くか』まで一緒に決める。そこまでして初めてバトンを繋いだと言える」
「開業助産師として、医療機関へ繋ぐ際の紹介状の書き方や医師への伝え方が、専門的でスムーズに」
「行った方がいいですよ」で終わらせない。紹介状の書き方や医師への伝え方まで身についてきたというのは、学びを積み重ねた大きな成果だと思います。
④ サバイバー対応の変化 ——「話を避ける」から「踏み込んだ会話」へ
「乳がん術後に妊娠・出産を希望する方に、妊孕性温存や治療中断のタイミングを踏み込んで話せる」
「授乳期間が終わった後のフォローまで視野に入れた、長いスパンでの女性の健康支援」
苦手意識から話題を避けていたところから、踏み込んだ会話ができるように。これも本当に嬉しい変化でした。

なぜ、変わることができたのか
振り返って、変容を支えた要因は3つあったと考えています。
① 継続性 —— 一度きりでは、身につかない
3時間のセミナーを1回聞いて「なるほど」と分かった気になっても、たいてい忘れてしまいます。月1回、何度も似たテーマに触れることで、少しずつ本当に身についていく。平均在籍26.81ヶ月という長い関わりが、一過性ではない深い変容を定着させたのだと思います。
正直な話、世の中には良い本がたくさんあふれていて、買って読めば勉強できるはずなんです。でも、なぜかみんなそれができない。講座に出席し、周りが頑張っているのを見て「じゃあ自分も」と感化されて、ようやく勉強するもの。
「今日はだるいな」と思っても、アーカイブが溜まる一方だし10分だけでも出ておくか——そんなふうに、続けられる仕組みそのものに意味があるのだと思っています。
② 当事者性 —— 語りの力
このコミュニティには、乳がんを経験された助産師さんが4名在籍されています。同じ職種の当事者から直接お話を聞ける機会は、そう多くありません。この語りが、深い気づきを促したのだと思います。
③ 自己再定義 —— 自己像の書き換え
「母乳育児支援者」から「乳房の健康を守る臨床職」へ。教育が、助産師さんご自身の自己像を書き換えていったのではないかと考えています。
そしてもうひとつ。金曜の夜9時半という、誰も好んで勉強したくない時間帯に、それでも集まってくださる。開業も、病院も、大学も、立場は違えど「乳がんを学びたい」という志の高い方が集まっている。その方々と一緒に、講義だけでなくディスカッションや経験のシェアをしてきたことが、何よりの財産だと思っています。
参加している助産師さんの声
今回のグルコンの中で、こんな言葉をいただきました。
「母乳相談でお母さんたちのおっぱいに触れることが多かったのに、正しい知識を持ってお話しできていたんだろうか——という思いが、自分の中でずっとありました。毎回、新しいことだったり復習だったりで、勉強していくのが本当に楽しいです」 (初回から一度も休まず参加されている方)
「勉強を続けさせてもらうことで、『乳腺外科に行こう』『ただの乳腺炎で終わらせないように』という明確な判断基準ができて、自信を持って患者さんに説明できるようになりました。助産学生への講義でも、授乳の仕方だけでなく『乳がんを見逃さないことも助産師の大事な責務なんだ』と付け加えて話せるようになりました」
「先生の知識が直接乳がんの患者さんに役立つのはもちろんですが、助産師を育てて、その助産師から発信を広げていくという仕組みの作り方がとてもいいと思うんです。そうやってできる人が広がっていくことが、いろんな女性の役に立つのではないでしょうか」
私自身が今、臨床の現場でできることは限られています。けれど助産師さんに継続的にお伝えすることで、その助産師さんが関わるお母さんたちへ、知識や啓発が少しずつ広がっていく。「乳腺炎でしょう」と様子を見られてしまう方が、昔より少しでも減っていけばいいなと思っています。
助産師さんの役割を、再定義したい
今回の発表の最後に、私はこう提言しました。
① 乳房の健康を守る「ゲートキーパー」として
授乳期のしこりが何なのか、その場で分からなくてもいい。「少しでも疑わしい」と思ったときに、正しくつなげてくださる門番のような役割を担っていただきたい。
② 乳がん経験者の妊娠・出産を支える「伴走者」として
助産師さんは、私たち医師よりもはるかに寄り添うことのできる職種です。乳がんを経験され、その後に妊娠・出産・授乳・育児をされる方の伴走者になっていただけたらと思います。
③ チーム医療の一員として
これまでの乳がん診療のチームには、看護師までは入っていても、助産師さんはあまり入ってきませんでした。けれど晩婚化・晩産化が進み、不妊治療中に乳がんが見つかる方も、治療後に妊娠・出産される方も増えています。乳腺専門医が身近にいない地域でも、知識のある助産師さんが正しい方向に送り出してくださる——そんな体制ができたらと願っています。
助産師は、若年女性の乳房健康を守るゲートキーパーであり、 乳がん経験者の妊娠・出産を支える伴走者となりうる。
これが、今回の発表の結論です。
一緒に学び、少しずつ社会を変えていきませんか
ここまで読んでくださって、「自分もこんなふうに変わりたい」と感じてくださった方がいらしたら、とても嬉しいです。
ピンクリボン助産師アカデミーでは、月1回のオンライン勉強会(グループコンサルティング)を中心に、継続的に学べる場をご用意しています。リアルタイムで参加できない場合も、すべてアーカイブでご覧いただけます。
- 月1回のミニ講座&グループコンサルティング(アーカイブ視聴可)
- Q&A動画教材、参考書籍・サイトのご紹介
- メンバー同士でお役立ち情報をシェアできる専用サイト
- 志の高い助産師さんとのつながり
月額 ¥3,000(税込)/最低入会期間3ヶ月/お好きなタイミングで参加開始できます
一度きりの学びでは、なかなか身につきません。だからこそ、続けられる場所で、仲間と一緒に。あなたが学ぶことで、救える命があります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
一人で始めた勉強会が、こうして形になって学会で発表できるところまで来られたのは、続けて参加してくださっているみなさんのおかげです。これからも、みなさんが経験された症例をシェアし合えるような場を作っていきたいと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。




