2024年10月25日Breast Awareness 乳腺放射線科医

アメリカでの乳がん診療に寄り添う:在米日本人女性のためのシェアディシジョンメイキングのお手伝い

はじめに

アメリカに住む日本人女性が乳がんと診断された時、治療に関する意思決定のプロセスは言語や慣習、ガイドラインの違いによってさらに複雑になることがあります。

私はここ数年、病院外でアメリカに住む日本人女性の乳がん診療を陰ながらサポートしてきました。

今回は、治療の選択肢を一緒に考え、最善の決断を導く「シェアディシジョンメイキング」(SDM)というアプローチについてお話しします。

シェアドディシジョンメイキングとは?

シェアディシジョンメイキング(Shared Decision-Making: SDM)は、医療提供者と患者が一緒に治療方針を決めるプロセスです。

特にがん治療では、手術や化学療法、放射線治療など複数の選択肢があり、それぞれにメリットやデメリットがあります。

SDMは、患者さんが自身の価値観やライフスタイルに合った選択肢を選べるように、医療提供者が情報を提供し、共に考える重要なステップです。


医療において、かつては「パターナリズム(父権主義)」というアプローチが一般的でした。

これは、医師が患者に代わって最善と思われる治療法を決定し、患者さんにその治療を受けさせる考え方です。

この時代、患者さんは医師の判断に従うことが一般的で、医師主導の医療が主流でした。



20世紀後半になると、医療倫理の分野が発展し、「インフォームド・コンセント」(説明と同意)という考え方が広がりました。

この考え方は、医師が治療内容やリスクについて十分に説明し、患者さんがその情報に基づいて治療に同意するというプロセスを重視しています。

これにより、患者さんの自己決定権が強調されるようになりました。


変化の要因:

  • 情報へのアクセスの拡大
    インターネットやメディアを通じて、患者さんが自らの健康状態や治療選択肢に関する情報を得やすくなり、自主的な意思決定が可能になりました。
  • 医療の複雑化
    医療技術が進歩し、治療の選択肢が多様化する中で、患者さん自身が自分の価値観や生活に合った選択をする必要性が高まりました。


そこで登場したのが、シェアディシジョンメイキングです。


研究によると、SDMを取り入れることで、患者さんの治療結果が向上する場合が多いことがわかっています。

SDMにより、患者さんが自分の価値観に合った選択を行い、それに基づいた治療を受けることで、治療の成功率が高まることがあります。

さらに、患者さんが自分の選択に納得していると、治療に対する満足度が高まり、メンタルヘルスにも良い影響を与えることが知られています。

しかし、実際の臨床現場でSDMを実践するには、いくつかの問題があります。


シェアドディシジョンメイキングが難しい理由

1. 情報量の差

がんと診断され、患者さん自身が一生懸命勉強したとしても、やはり医療者との間には圧倒的な知識の差があります。

医療者は専門的な知識や経験をもとに治療の流れや選択肢を説明しますが、患者さんが短時間で正確に理解することは容易なことではありません。

特に、医療用語が難しく、患者さんがすぐには理解できないことがしばしばあります。

2. 時間の制約

臨床現場では、医師や医療スタッフが1人の患者さんに割ける時間が限られています。

SDMには、治療の選択肢を説明したり、患者さんの質問に答えたりするための十分な時間が必要です。

しかし、忙しい外来ではこうした時間を十分に取れないことがしばしばあり、SDMが不完全になりがちです。

また患者さんがどういった生活を送っていて、どのような価値観を持っているか、を知るためには十分なコミュニケーションが欠かせませんが、残念ながらそこまでの時間的余裕がある現場はそう多くはないでしょう。

3. 患者の意思決定能力

SDMでは患者さんが自分の意思で治療法を選ぶことが重要ですが、皆が簡単にできるわけではありません。

感情的なショックや不安、情報過多による混乱などで、患者さんが自分で意思決定するのを困難に感じることがあります。

また、特に高齢者は「先生にお任せします」と言いたい方も多いのですが、このシェアディシジョンメイキングにおいてはそれはできず、意思決定に対する負担が大きくなることもあります。


これらに加え、言語や慣習、ガイドラインの違いもあることから、在米日本人のシェアディシジョンメイキングは更に難しくなっています。


アメリカ在住の日本人女性へ 継続的な乳がん診療サポートを




最近、アメリカにお住まいの乳がん患者さんの継続的なサポートをさせていただきました。


血性乳頭分泌で日本で経過観察されていたところ、アメリカへ移住。

アメリカの医療システムに戸惑いを感じていた彼女は、私のところへ相談に来てくださいました。

・病院選び

・乳房MRIの結果説明

・今後の診断や治療の流れ

・針生検結果から予想されること

・手術方法の選択

・手術結果の説明と今後の治療方針の解説

など、チャットや複数回のzoom相談でサポートさせていただきました。


質問し、疑問を解消した上で、SDMのプロセスを通じて、最も適した治療法を選び取ることができました。

乳がんの治療方針はは病理結果で変わっているので、針生検、手術検体の結果でその都度考えなくてはいけません。

自分で決めることとはいえ、一人で決めていくのは容易なことではありませんよね。

私の行っている、オンライン医療相談では、以下のような点に重きをおいています。

・情報をわかりやすく伝える:専門的な情報をできるだけわかりやすく、セミナー録画や情報リンクも提供しています。

・十分な時間の確保:待ち時間なく1時間お話をうかがいますので、質問も十分にできます。

・心理的サポート:これからの生活のこと、家族のこと、心配なのは当然のこと。不安な気持ちに寄り添います。

・生活に根ざしたアドバイス:治療開始によって予想される生活の変化をお話しし、一緒に対策を考えます。




これらを気をつけることで、SDMをより実践的かつ効果的に行うことができるようになります。



アメリカにお住まいで、乳がん関係でお悩みの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

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