海外ドラマから学ぶ「プランB(緊急避妊薬)」と「プランC(経口中絶薬)」
日本の性教育はいまだに「寝た子は起こすな」という考え方が根強く、提供する知識が不十分な上に学校でも家庭でも、避妊や妊娠について話すことはまだまだタブーとなっています。
一方、海外ドラマをみていると、若者たちがごく自然に「プランB(緊急避妊薬)」や「プランC(経口中絶薬)」について話し合い、必要な医療にアクセスする様子が描かれています。そこには、自分の身体を自分で守るための”知識”や性の話題を隠さない”文化”、その人自身の意思決定を尊重する”価値観”があります。
この記事では、アメリカ・イギリス・オーストラリアのドラマで描かれるプランB・プランC、そして日本で起きている「相談できずに出産してしまう事件」をつなげながら、若者の命と未来を守るために必要なことを考えていきます。

- 1. プランB?プランC?
- 2. 海外ドラマで見る「プランB」
- 2.1. 1. Ginny & Georgia(アメリカ)シーズン1第2話
- 2.2. 2. Master of None(アメリカ)シーズン1第1話
- 2.3. 3. Sex Education(イギリス)シーズン2第7話
- 3. 海外ドラマで見る「プランC」
- 3.1. 1. Ginny & Georgia(アメリカ)シーズン3エピソード7
- 3.2. 2. Heartbreak High(オーストラリア)シーズン2エピソード7
- 3.3. 3. Grey’s Anatomy(アメリカ)シーズン19エピソード3
- 4. 一方で日本では…?
- 4.1. プランB(緊急避妊薬)
- 4.2. プランC(経口中絶薬)
- 5. 相談できずに出産し、赤ちゃんが命を落としてしまう事件
- 6. どうすれば防げるのか?
- 6.1. ① 正しい知識を持つこと
- 6.2. ② 家族で話し合える空気
- 6.3. ③ 身近な大人に相談できる環境
- 6.4. ④ 医療につながりやすい仕組み
- 7. 最後に— リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点から
プランB?プランC?
まず整理しておきます。
- プランA (通常の避妊)
特別な定義はなく、通常の避妊(コンドーム、低用量ピル、IUDなど)を総称したもの。実際の会話で「プランA」という言い方はほぼ使われません。
- プランB(緊急避妊薬)
避妊の失敗・避妊なしの性行為後に、妊娠を防ぐために使用する薬。72時間以内に服用することで高い効果が期待できます。
代表的な薬品名:
- レボノルゲストレル (LNG)/商品名例:ノルレボ、レボノルゲストレル錠
- ウリプリスタール酢酸エステル/商品名例:エラOne(日本では未承認)
日本でも、ようやく薬局で処方箋なしで入手できる方向性が示されています。
一方アメリカでは、薬局だけでなく、大学構内にも緊急避妊薬を設置する動きが広がっており、若者が必要なタイミングでアクセスしやすい環境が整いつつあります。
- プランC(経口中絶薬)
妊娠初期に使用できる中絶方法。2023年に日本でも承認されましたが、医療機関は限定的で、アクセスには大きな課題があります。
代表的な薬品名(2剤併用):
- ミフェプリストン(メフィーゴパック)
- ミソプロストール(メフィーゴパック)
日本ではまだまだ普及しているとは言えない状態にありますが、海外ドラマでは、これらがよくストーリーに登場します。全てNetFlixで視聴可能です。
海外ドラマで見る「プランB」
1. Ginny & Georgia(アメリカ)シーズン1第2話
初体験で避妊を忘れた高校生の主人公が一人で薬局に出向き、プランBを購入。
男性が一緒に来ていないことで、店員に少し批判的な態度を取られるが、彼女ははっきりと「セックスをしたのは自分の責任」と言い返す。
10代でも自分の身体のことを主体的に選択できる環境が、ごく自然に描かれている。

2. Master of None(アメリカ)シーズン1第1話
おそらく20代の男女。初デートで性行為中、コンドームが破れる。
念のため、男女一緒に薬局へ行き、プランBを購入。
気まずさが漂いながらも、“2人の問題として一緒に向き合う”描写が印象的。

3. Sex Education(イギリス)シーズン2第7話
酔った勢いでセックスをした高校生の2人。翌朝コンドームが見つからないことで心配になり、授業を抜け出し薬局へ向かう。
そのお店では男性が単独で購入しようとしてできなかったため、女性も一緒にカウンターに行き、男性が支払う。
高校生でも知識があれば正しいケアにアクセスできること、そして 田舎であっても必要な薬を手に入れられる仕組みが描かれている。

海外ドラマで見る「プランC」
1. Ginny & Georgia(アメリカ)シーズン3エピソード7
ピルの飲み忘れにより、16歳の主人公ジニーが思いがけず妊娠してしまいます。
これまで何かとコントロールしがちだった母・ジョージアは、ここでは一転して「産むかどうかは、あなただけが決められること」と静かに告げるシーンがとても印象的。
ジョージア自身は10代のうちに2人出産し、シングルマザーとして苦労して子供を育ててきた過去があります。しかし、娘のジニーは同じ道を選ばず、薬による中絶を選択。
母娘の関係に問題や葛藤があっても、いざという時にはジニーは母を頼り、母もまた決断を受け止め、支えようとする姿が丁寧に描かれています。さらに、その後駆けつけた父親も批判することなく、サポーティブな態度でした。

2. Heartbreak High(オーストラリア)シーズン2エピソード7
高校生の主人公が妊娠に気づき、薬局でプランCを購入。
親友や赤ちゃんの父親もつきそいながら中絶を行う。強い腹痛に驚き、電話でドクターの指示を仰ぐシーンも。
中絶を軽く考えていた彼女も「こんなにおおごとだと思わなかった」と語り、身体的・心理的負担をリアルに描いています。

3. Grey’s Anatomy(アメリカ)シーズン19エピソード3
外科のインターンが性教育のビデオ撮影に巻き込まれ、高校生に授業を行うエピソード。
生徒の一人が妊娠を告白し、「親に言ったら殺される」と一人で経口中絶薬での中絶を選択します。
たとえ10代であっても自分で決められる環境があり、医療従事者も個人の決断をサポートしています。

これらのドラマを見て印象的なのは、たとえ10代であっても自分で決められる環境が当たり前に描かれていることです。
パートナーや親の同意は必須ではなく、必要な医療や薬に自分でアクセスできる。
しかも、入手しやすく、手に届く価格であるという点も大きな特徴です。
一方で日本では…?
プランB(緊急避妊薬)
オンライン処方が普及してきていた日本ですが、ようやく「医師の処方箋なしで薬局で購入できる方向性」が見えてきました。
ここまでの議論には長い時間がかかり、専門家や市民の声が少しずつ政策を動かしてきた経緯があります。
ただ欧米と比べると、依然として高い金額に設定されています。
プランC(経口中絶薬)
日本でも2023年にプランC(メフィーゴパック)が承認されましたが、現状のアクセスは非常に限定的です。
- 使用可能な施設が限られている
- 院内待機が求められる
- 費用が高額(およそ10~20万円とされる)
- 結婚している場合は、配偶者の同意が求められる
日本では、中絶そのものの是非をめぐる「強い反対」や社会的対立はあまり見られません。一方で、中絶がどのような条件で、どれだけの費用で提供されるべきかという議論は十分に行われておらず、中絶が高額な自費診療にとどまっている点への問題意識も、社会全体で共有されているとは言い難い状況です。
また、経口中絶薬は本来安価な薬であるにもかかわらず、実際にはトータルの費用負担を高く設定しており、利用には制度的なハードルも残ったままです。その結果、「必要なときに必要な医療へ」たどり着けない若者が生まれてしまっているのが現状です。
相談できずに出産し、赤ちゃんが命を落としてしまう事件
ここで、重いテーマに触れます。
日本では、誰にも相談できないまま妊娠・出産し、結果として乳児が死亡してしまう事件が、毎年のように報じられています。
現実に起きた事例では以下のようなものがあります。
- 妊娠を隠したままアパートのトイレで一人で出産
- 生まれたばかりの赤ちゃんを袋に入れて遺棄してしまう
- 出産時の大量出血で母体も危険な状態に
- 家族や相手に言えず、医療にかからず孤立し、パニックの中で殺害してしまう
これらは“特殊な事件”ではなく、毎年繰り返されている深刻な社会問題です。
助産師さんとお話ししていても、「決して珍しいことではない」と実感します。
根底にあるのは、性や妊娠に関する知識の欠如、相談できる環境の不足、そして“責められることへの恐怖”。
これは決して「母親個人の問題」ではなく、社会全体が抱える構造的な問題なのです。
どうすれば防げるのか?
① 正しい知識を持つこと
妊娠の仕組み、避妊、緊急避妊薬(アフターピル)、中絶の選択肢と権利。
正しい知識があるほど、早い段階で適切な支援に辿り着くことができます。
② 家族で話し合える空気
「困ったらいつでも言ってね」
「セックスの話をしても怒らないよ」
こうしたメッセージが家庭にあれば、孤立出産は確実に減らせます。
また、親がひとつの価値観に縛られず、柔軟な視点で子どもと向き合うことも大切です。
日頃から子どもに関心を持ち、少しの変化に気づける関係性もセーフティーネットになります。
③ 身近な大人に相談できる環境
相談相手は必ずしも親でなくて構いません。
学校の先生、保健室の先生、助産師、医療者、地域の大人、各種相談窓口……
「話しても大丈夫」と思える存在が、若者には必要なのです。
④ 医療につながりやすい仕組み
プライバシーに配慮した受診体制、若者が使いやすい料金設定、そして安心して立ち寄れる場所。
日本でもユースクリニックがより広がり、若者が自然に医療とつながれる仕組みが必要です。
最後に— リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点から
海外ドラマが描く性・避妊・妊娠・中絶のシーンには、
「自分の身体に関することを自分で決める権利(リプロダクティブ・ライツ)」
「必要な医療にアクセスできる環境(リプロダクティブ・ヘルス)」
が前提として存在します。
しかし日本では、その当たり前が「当たり前」でないがゆえに、若者や女性が孤立し、命が失われる事件が繰り返されています。
望まない妊娠を防ぐためには、まず“正しい情報を得られる環境”が不可欠です。
それでも避妊が失敗することも、予期しない妊娠も、誰にでも起こり得ること。
大切なのは、その後に支えられる仕組みがあるかであり、その選択肢としてプランB(緊急避妊薬)やプランC(経口中絶薬)が存在します。
安価で薬による中絶が可能になれば、安易な使用を懸念する声もあるでしょう。
しかし、だからといって「高額な中絶だけを提供し続ける国」であり続けることは、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)の本質から大きく逸れてしまいます。
医師として、そして娘を育てる母として、このテーマを安心して語り合える場を、これからもつくっていきたいと思います。
困っている若者がいたら手を差し伸べたい。
そして、自分の娘が困ったときには、真っ先に相談してもらえる母でありたい。
そう願っています。

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