2024年9月26日ライフキャリア リプロダクティブライツ

中国の一人っ子政策がもたらした社会の変化:リプロダクティブ・ライツの視点から

最近、よくリプロダクティブ・ライツ(生殖に関連する権利)について考えています。前回、日米の比較をブログにまとめましたが、中国ではどのようなことが起こっているでしょうか?

考え出した、きっかけは

私の住んでいる地域には、中国からの移民の方がたくさんいます。私が常々羨ましいなぁと思っていたことに、中国人の夫婦はどちらかの両親を中国から呼び寄せていて、おじいちゃん、おばあちゃんが孫の面倒をしっかりと見てくれていること。

また、祖父母だけでなく、中国人の夫婦は一人の子供を大切に育てる、といった家族の在り方をよく目にします。

ある日そのことを旦那さんに話したところ、「今は手厚く見てもらえていいけど、後々介護が大変らしいよ」と、いわゆる「4-2-1現象」について教えてもらいました。



「4-2-1現象」を知る

4-2-1現象:4人の祖父母、2人の親、1人の子供という家族構成で、1人の子供が複数の高齢者の介護を担わざると得ないという状況。

一人っ子政策の下で育った子供たちは、両親や祖父母から手厚いサポートを受け、「小皇帝(小皇帝現象)」と呼ばれます。

子育ての時はいいのですが、介護になると状況は逆転。ひとりで背負わないといけないので、キツそう。。。

この状況になってしまった要因には、1979年から2015年まで実施されていた「一人っ子政策」が関係します。ベビーブームなどを通じて急速な人口増加が続いていた中国は、食糧不足の懸念から、人口を抑制するための政策として「一人っ子政策」を打ち出しました。

この一人っ子政策は、長年女性のリプロダクティブ・ライツを制限し、多くの問題点を引き起こしました。以下に問題点をまとめていきます。



中国の一人っ子政策が生んだ問題

政府に強いられた、人工妊娠中絶や不妊手術

「子供は○人欲しい」という希望は一切無視され、産めるのは1人まで。政府の強制的な出産規則に従わざるを得ず、多くの女性が望まない中絶や不妊手術を強いられました。

これらの行為は、女性のリプロダクティブライツ(生殖に関する権利)を大きく侵害し、深刻な人権問題として国際的な批判を受けました。


男女比の不均衡

伝統的な価値観に基づき、男児の方が優先される傾向が強かった中国では、一人っ子政策が導入されたことで、性別選択中絶が広まりました。その結果、男女比の不均衡が顕著になり、男児に比べ女児が少なくなるという社会問題が発生しました(2001年には女児100名に対して男児117名が誕生)。

2005年に性別選択的中絶が違法化されましたが、取り締まりは難しく、性別選択的中絶は行われ続けたそうです。

その結果「男余り」の状態に。結婚適齢期とされる20歳から45歳までの人口で見ると、男性の数が女性の数よりも、3000万人も多い社会となってしまったのです。農村では、結婚難が深刻化しています。


ジェンダー差別と虐待

一人っ子政策によって、女児が生まれることを望まない家族は、女児を捨てたり、適切なケアを提供しないケースが増加しました。

また、貧しい農村地域では、政策を逃れるために女児の出生が報告されない「隠れた子ども」問題も発生し、これらの女性や女児が教育や医療サービスを受けられない状況が続きました。


キャリアや家族、介護へのプレッシャー

両親と4人の祖父母の期待を一身に背負い、「できるだけいい学校へ」「できるだけいい仕事へ」など、いわゆる「成功」へのプレッシャーはすごかろうと思います。

また一人っ子は、家系を継ぐ唯一の存在であるため、「後継ぎ」を持つことに対する社会的・文化的な圧力も強く感じてしまいます。

そのプレッシャーに耐えたのち、両親や祖父母が高齢になった場合の担い手は自分1人。介護の責任がひとりに集中することで、精神的・肉体的負担のみならず、経済的負担も重くのしかかってきます。


一人っ子政策の終焉と今なお残る影響

2016年に廃止された一人っ子政策。子供を2人まで容認したものの、出生率が上がらず、少子高齢化は加速しています。

また現在では子供3人まで許可されたにも関わらず、出生率は1.16と日本よりも低い!

産児制限が緩和された今なお残る、一人っ子政策の影響とはどのようなものなのでしょうか?


1. 子育てはお金がかかるもの、という認識

中国の都市部では、教育費、住宅費、育児にかかる費用の高騰が続いています。かつての一人っ子政策下での家族は、1人の子供に最大限のリソースを集中させ、質の高い教育や生活環境を与えようとしました。これが「一人っ子に全投資する」という価値観を定着させ、今でも「子供を持つこと=経済的な負担が大きい」という認識が根強く残っています。

また、良い教育を受けさせるための塾や習い事など、教育費が家庭の大きな負担となっています。このため、たとえ二人以上の子供を持つことが可能になっても、多くの家庭はその費用を恐れ、子供を増やす選択を躊躇しています。


2. 一人っ子が当たり前

一人っ子政策のもとで育った世代にとって、一人っ子という家族構成が「普通」として定着しています。このため、子供が2人以上いる家庭は珍しく、多くの家庭では「一人っ子が標準的」という感覚が根強く残っています。日本で時々言われる「一人っ子はかわいそう」という感覚が全くないのです。

親たちも、自分が一人っ子として育った経験から、子供が1人だけであっても十分に幸せであると考えることが多いです。


3. アクセスしやすい中絶

一人っ子政策の時代には、厳格な出産制限のために、強制的な中絶が行われることがありました。その影響で、中絶手術は比較的容易にアクセスできる医療サービスとなり、女性の妊娠中絶は社会的に広く受け入れられています。長年の産児制限が、中絶手術への抵抗感を弱めた、という見方もあります。

結果的に出生率の低下に寄与する要因の一つとなっており、中国は人工中絶への規制も考えだしているようです。

4. 女性も求められるキャリアの成功

中国では、一人っ子政策の下で女性の社会進出が進み、キャリア志向の女性が増えました。特に都市部では、女性も高学歴であり、社会的な成功を求められるプレッシャーが強いです。結婚しても仕事を続け、キャリアを犠牲にせずに成功することが理想とされるため、子供を持つタイミングを遅らせる、または子供を持たない選択をする女性が多くなっています。

さらに、ジェンダーギャップは根強く残っており、育児休暇や働きながらの育児に対するサポートが十分でない場合が多いです。結果として、女性は仕事と育児の両立に苦しみ、キャリアを優先し子供を持たない決断をすることが多くなっています。


このように中国の一人っ子政策は終了したものの、その影響は家族計画の選択や価値観に深く刻まれています。「産むな」と何十年も言い続けて、突然「産め」と言ったところで、社会はそんなにすぐは変われないのです。


リプロダクティブ・ライツが保証されると少子化になるの?

中国では長い間、一人っ子政策により女性のリプロダクティブ・ライツを制限していましたが、現在ではある程度は保証されている状態です。

そうなるとどうなるのか?結局は、他の先進国と同じように少子化が止まらない状況となっています。

女性の価値は、子供を産み育てるだけじゃない。もちろん、キャリアの成功も経済的自立も大切にしてもらいたい。

価値観が多様化する現代において、改めて「子供を産み育てる」ことの価値を見直す必要があると強く感じました。

子供が産みたいかどうか、一度真剣に考えませんか?